21 Jun 08
或る『王子』が、かへりみれば、たゞたゞ何んの奇もない贅沢三昧に、日を暮らして來たことを思つてむかむかした。彼は戀愛の驚く可き革命を豫見してゐた、妻妾達には、お天氣と装飾とに甘やかされた喜び以上のものは一體が無理ではないかと考へてゐた。彼には眞實が欲しかった、ほんたうの願望と滿足とが得たかつた。たとへ、これが信心の迷ひ事であつたにしろ、なかつたにしろ、兎も角彼は願つたのだ。少くとも、彼は充分に人間の力は持つていた。— ランボオ『飾画』より、「小話」
彼を知つた女達は、すべて殺された。美の園の、何といふ掠奪だ。剱の下で、女等は彼を讃へた。それ入らい 、新しい女を命じなかった。——が、女達は又現れた。
狩や、飲酒の後、彼は従ふものをすべて殺した。——だが、皆彼のあとを追つた。
校歌な動物の喉を割つて樂しんだ。宮殿を焼いた。人々の頭上に跳(おど)りかゝって、彼等を寸斷した。——だが、群集も金色の屋根も美しい動物も、やつぱりなくならなかつた。
破壊の裡に醉ふ事が出來るのか、殘虐によつて青春を取戻す事が出來るのか。誰一人文句を言ふものもない、誰一人同意を稱へるものもないのだ。
ある夕方、彼は昂然として馬を驅つた。と、何とも言ひ様のない、いや、言ふも切ない程麗しい一人の『天才』が姿を現した。その面から、姿から、何とも定め難い、いや、支へ兼ねる程の幸福の、幾重にも錯綜した戀愛の約束が放たれた。『王子』と『天才』とは、恐らくは眞の健康の裡に、互に刺違へた。この時、どうして生きながらへる事が出來ただらう。二人は一緒に死んで行つた。
だが、この『王子』は、その宮殿で、尋常の齡、天寿に由つて身罷つた。『王子』は『天才』であつた。『天才』は『王子』であつた。
優れた音楽が、われわれの欲望には缺けている。